【NTTデータ】1万人以上が使うAIエージェン トの裏側──開発現場で見えた「全員PdM思考」の重要性
生成AIを活用すれば、スライド作成も資料整理も、驚くほど簡単に「作れる」ようになった。しかし、その技術は本当に企業の現場で「使われ」、価値を生み出しているのだろうか。 TECH PLAY主催「生成AI Conference」に登壇した株式会社NTTデータの吉本 和真(よしもと・かずま)氏は、「作れること」と「使われること」の間に横たわる大きな壁を指摘する。本講演では、AIエージェント時代にエンジニア一人ひとりに求められる思考の変化と、現場で価値を届けるための視点について語られた。生成AIを活用すれば、スライド作成も資料整理も、驚くほど簡単に「作れる」ようになった。しかし、その技術は本当に企業の現場で「使われ」、価値を生み出しているのだろうか。
TECH PLAY主催「生成AI Conference」に登壇した株式会社NTTデータの吉本 和真(よしもと・かずま)氏は、「作れること」と「使われること」の間に横たわる大きな壁を指摘する。本講演では、AIエージェント時代にエンジニア一人ひとりに求められる思考の変化と、現場で価値を届けるための視点について語られた。
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「作れる」ことと「使われる」ことの間にある「壁」
演者プロフィール
株式会社NTTデータ
ソリューション事業本部
デジタルサクセスソリューション事業部
主任
吉本 和真(よしもと・かずま)氏
株式会社NTTデータ(以下「NTTデータ」)の吉本氏は、入社5年目のエンジニアとして、仮想デスクトップ(VDI)の運用やゼロトラストセキュリティ領域のサービス企画・開発を経験してきた人物である。2023年以降は「何を、誰のために作るのか」を起点に、RAGシステムやAIエージェントサービスの企画・開発に携わり、社内で約1万3000人が利用するAIエージェント基盤「LITRON CORE(リトロン・コア)」の立ち上げと展開を推進している。


「LITRON CORE」は、統括エージェントが業務特化型の実行エージェントを組み合わせ、ユーザーの要望を実現するマルチエージェント構成を採用している。スライド作成エージェントでは、リクエストに応じて構造化情報を自動生成し、NTTデータのデザインに準拠したインフォグラフィックスなスライド資料を作成できる。生成された資料は自然言語での修正も可能で、既存資料を別の内容で再作成する機能も備えている。

しかし吉本氏は、技術の進化によって個人でできることは増えたものの、それが企業で使われているかは別問題だと指摘する。
「『作れる』ことと『使われる』ことには、大きな壁があると感じています」(吉本氏)

例えば、ベクター画像フォーマットSVG(Scalable Vector Graphics)でスライドを作る技術は話題になっても、一般ユーザーが自分の業務に取り入れるにはハードルが高い。企業としてはPL(損益計算書)インパクトに貢献しなければ導入価値を判断できないため、誰もが簡単に使え、組織の生産性とPLインパクトを生む仕組みとして提供することが重要になる。

つまり技術は、「『作れる』ことに価値がある」ものであったが、「技術を前提に、課題をどう理解し、どう組み合わせ、どう業務にフィットさせるか」へと変遷しており、エンジニアに対して求められることが変化している。逆にこの点がエンジニアの腕の見せどころになってきているという。
AIエージェント時代のエンジニアに求められる「PdM思考」四つの要素

吉本氏は、「どう使われるか」を考えるためには、単にアプリのバックエンドが書けるだけでは不十分だと指摘する。業務に潜む暗黙的なプロセスや前提条件を分解し、アプリケーションだけでなくお客様の業務プロセスへの理解、および基盤や運用を含めて安定的にサービスを提供できるかまで設計する必要があるからだ。

企業ごとに異なる文書量やフォーマット、業務文化にフィットさせることも欠かせない。要件を満たすだけの開発から、エンドユーザーにどんな価値を届けるのかを起点にした開発へ──。技術変化が激しい時代だからこそ、スクラップアンドビルドを前提にリスクをコントロールしながら、開発に携わる一人一人が価値を意識する必要があると吉本氏は語る。

ここで吉本氏は、AIエージェント時代のエンジニアに必要な「PdM思考」を四つの要素で整理した。
一つ目は技術を「手段」として理解できること。二つ目は課題を潜在的なプロセスを含めて目的として意識できること。三つ目はエンドユーザーにどう届けるかの体験を設計できること。四つ目はそれをやりきる力があること。この四つの基礎力の上に価値創造が成り立つ。

では、チーム全員がこの思考を持つとどうなるか。吉本氏は三つの価値を挙げた。まず意思決定のスピードが上がる。次に、PdMと現場が共通認識を持てるため、創出する価値とコントロールすべきリスクのバランスを現場でもコントロールできる。そして、仕様を書く人と作る人が分かれることで生じる認識の乖離やコミュニケーションロスを防げる。このように、実装者・設計者全員が少しずつPdM思考を持つことで、開発プロセスにおけるスピード・質・コストを改善できる。

では、こうしたPdM思考を実際の開発ではどう使うのか。吉本氏は、意識すべき具体的な観点を四つに整理する。
一つ目は、アプリケーションレイヤーだけでなく、基盤や運用設計まで含めて考えられているか。二つ目は、技術を「何のために使うのか」という理由を持って選択できているか。こうした意思決定は、プロダクトのロードマップや方向性そのものを左右する。
三つ目は、技術をエンドユーザーに届く価値としてどう設計するか。四つ目は、変化の激しい技術特性を踏まえ、リスクをコントロールしながら開発プロセスを高速に回す仕組みを作れているかだ。
PdM思考をどう実装したか──NTTデータ三つの開発事例
吉本氏は、これまでに述べてきた観点を踏まえ、実際の開発現場でどのようにPdM思考を適用してきたのかについて、三つの事例を紹介した。
事例① RAG:運用と品質の壁をどう越えたか
実際の開発では、RAGにおける運用と品質の壁をどう越えるかが課題となった。社内ナレッジを横断検索したい、精度を上げたいという要望に対し、検索精度を高めるだけでは不十分だったという。

「持続可能にインデックスが更新されるのか、古い情報がどうアップデートされるのか、運用工数はどれくらいかかるのか」(吉本氏)
吉本氏は、こうした観点まで含めて設計しなければ、企業で使われるサービスにはならないと語る。これらを踏まえて設計した結果、多様なソースからの自動収集と差分更新を実現。運用コストを最小化したうえで、社内情報を構造化できるようになった。さらに品質面では、表の理解や画像内容のマルチモーダル認識、事前スクリーニングやチャンク分割を組み合わせることで、回答精度と使いやすさの両立を図っている。

加えて吉本氏は、「もう一つの重要な観点」として基盤選定の重要性を挙げた。RAGを構築する際には、AI SearchやCosmos DB、OpenSearchなど複数の選択肢がある。どの基盤を採用するかは、コストやユーザー体験、将来性、運用保守、性能・精度を含めて検討すべきプロダクトレベルの意思決定になるという。これは、サービスの方向性や事業判断にも直結するため、現場だけでなくPdMやマネージャーも基盤の特性を理解したうえで判断することが重要だと強調した。
事例② UI/UX:技術の使い方を変えて価値を届ける

UI/UXにおいても、技術の使い方を工夫することで価値創造を図った。サービス初期は「どう使えばいいかわからない」という認知負荷が高い状態だった。
そこで導入したのがサジェスト機能だ。ただし、単に質問候補を提示するのではなく、クリックするとその人が知りたいレベル感に合わせた詳細な文章を生成する仕組みにした。これはStructured Output(構造化出力)という技術を、バックエンド処理ではなくUI/UXと組み合わせて活用した例だ。
「技術の捉え方を変えることで、ユーザーの行動をどう変容させたいかを技術起点でも創造的にアプローチできるようになる」と吉本氏は強調する。
事例③ 開発プロセス:品質を保ったまま高速化する

三つ目は、開発プロセスの高速化だ。従来は作業の委託が階層構造になっており、報告のための資料作成に時間を取られていた。その結果、意思決定のスピードやプロダクト理解の解像度が下がるという課題があった。

今回のサービス開発では、PdMと各エンジニアが一次情報を理解した状態から議論を開始。そのため同じ目線・理解度で、仮説思考をもとにメリット・デメリットを踏まえて報告ではなく議論することで早期に最適なアプローチでの実装、意思決定につながったという。また、一例として画面定義工程では、Codexなどのエージェント駆動で動くHTMLとして作成。動くものとして擦り合わせできることで生産性が向上した。
一方で「このプロセスを組み込むことによるリスクや、品質基準をどう担保するかが重要」と吉本氏は付け加え、PdM思考にはスピードと同時にリスクコントロールの視点が不可欠だと語った。
現場から価値を届けられる立場へ──AIエージェント時代のエンジニア像

AIエージェント時代において、「エンジニアは機能要件を作れば良い」という思考を捨てる必要がある。
講演最後に吉本氏は「一人ひとり自分自身が価値を届けられる立場にある」と述べ、現場からボトムアップでPdM思考を持ちながら開発することの重要性を訴えた。
技術を知っているからこそプロセスも改善でき、より価値の届きやすい設計ができる。この姿勢がプロジェクト全体の生産性向上につながっていくだろう。
【パネルディスカッション】生成AI活用のリアル──成果が出た現場と、伸び悩んだ現場から見えたもの
次のセッションでは、本講演が行われたオンラインイベント「TECH PLAY 生成AI Conference」の登壇者全員によるパネルディスカッションが行われた。
この記事では、生成AI導入の理想と現実、そして組織として成果を出すための条件について、NTTデータ吉本氏が語った内容を抜粋して紹介する。
⚫︎成果が出た現場と伸び悩んだ現場の違いは何か
吉本氏:我々の会社にはホワイトカラー、コンサル、開発などさまざまな職種がいますが、四半期ごとのアンケートでは職種によって活用度に差が出ています。全体として言えるのは、検索や情報収集は一般的になり使いやすくなった一方で、ドキュメント作成などは依然として生成AI活用に関して壁があるということです。
作り手としては「これなら使いやすいだろう」と閾値を下げたつもりでも、エンドユーザーからすると実は使いにくかったりする。こうした資料作成などの複雑なプロセスをどう改革していくかについて、我々が向き合い続けるべき大きな課題です。
【Q&Aセッション】
Q&Aセッションでは、吉本氏がイベント参加者から投げかけられた質問に回答した。
Q. AI導入による効果測定について、定性的な目標では説得材料として弱いのでは?定量指標の設定は困難でしょうか。
吉本氏:弊社の社長もよく言っていることですが、AIを活用した結果、ただの「コーヒーブレイク」の時間が増えただけになっていないか、という点は非常に厳しく見られています。「45分削減した、60分削減した」といった数字は重要ですが、どうしても本人の尺度に依存してしまいます。そのため我々は、アンケートの中で、定量指標を設け、それを収集・分析していくことで定量観点での効果を見える化するアプローチを取っています。現場の定性的なコメントを収集して定量化し、分析/改善していくことによって、コストインパクトとして現れてくるため、こうしたサイクルを回し続けることが有意義な活動につながると考えています。
Q. 行動変容を踏まえたチューニングの話がありましたが、ユーザー側に対する教育や意識変容に向けた取り組みも並行されていますか?
吉本氏:はい、四半期ごとにトップダウンで生成AIツールの使い方研修を実施しています。「案外誰でも知っているだろう」という使い方が、実は一般ユーザーには届ききっていないのが実情です。そのため、リスクと使い方を丁寧に説明していくことで、現場一人ひとりが活用に向けた意識づけを持てるよう取り組んでいます。
Q. 開発プロセスにおけるAI導入状況を評価する際、他社と比較するためのベンチマークやKPI指標は何が適切ですか?
吉本氏:他社と比べてKPIやベンチマークを明確に設定しているものはありません。開発プロセスや品質基準は個社ごとに異なるためです。他社との比較よりも、自分たちのプロセスがどう変わったかをコストベースで評価すること、そしてそれによって売上が上がったかどうか、この2つを評価指標として重視しています。
Q. 全員PdM思考を進めていくうえで、工夫していることや有効なアプローチがあれば教えてください。
吉本氏:実装の結果を確認するのではなく、「なぜそう考えたか」という思考プロセスを言語化してもらい、一緒に話すようにしています。結果だけを指摘して修正しても、その機能がなぜそのようにデザインされるべきなのかという意図が届きません。「誰のための機能で、どういうプロセスで形づくっていくのか」を一人ひとりに語ってもらうことで、強い当事者意識を持ってもらえるよう工夫しています。
Q. こういった(「生成AI Conference」のようなイベントや講演)場で発表するモチベーションは何か。自社だけに閉じ込めて出し抜いた方が儲かりそうです。
吉本氏:せっかくNTTデータという大企業にいるので、世の中にインパクトを与えられる位置にいると思っています。自分たちでボトムから立ち上げた取り組みや成果をしっかり世に出していくことで、同じ志を持った企業や個人の方々に参入いただき、より大きな社会的インパクトを出していきたいと考えています。きれいごとかもしれませんが、それが私自身のモチベーションになっていますね。
文=宮口 佑香(パーソルイノベーション)
※所属組織および取材内容は2025年12月時点の情報です。
株式会社NTTデータ
https://www.nttdata.com/jp/ja/
株式会社NTTデータの採用情報
https://www.nttdata.com/global/ja/recruit/
【TC&S】企業の働き方を変革する生成AIソリューションの企画・開発<1068>
https://nttdata-career.jposting.net/u/job.phtml?job_code=1260
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