【後編】世界のテックジャイアント、エンジニアブログの「一歩目」からカルチャーを探る
この記事は、技術広報アドベントカレンダー シリーズ2 23日目の記事です。
前回の国内編いかがでしたでしょうか?今回は少し外に目を向けて国外の事例も調べてみました。
Google、Meta、GitHub、Netflix... 僕たちが日頃お世話になっているサービスやツールを作っている彼らのエンジニアブログは、一体どのように産声を上げたのでしょうか。
Google - Is this thing on?
まずは、Googleです。 彼らのブログの歴史は、2004年5月10日に遡ります。
記念すべき最初の投稿のタイトルは「Is this thing on?(マイク入ってる?)」でした。
執筆者は、Googleに買収されたBloggerの共同創業者であり、後にTwitterやMediumを立ち上げることになるEvan Williams氏。現代のSNSや発信文化の礎を築いた彼が、Googleにおける技術発信のスイッチも入れていたとは驚きました。
記事の中で彼は、「Googleに来てからずっと公式ブログの話をしていた」「Bloggerというサービスを持っているのに、始めるのが遅すぎた」と自虐的に語りながら、ついにブログを立ち上げた様を執筆しています。
本文を読んでから、このタイトルを読むとなんともおしゃれというか、センスを感じてしまうのは僕だけでしょうか。
このポストから間もない同年6月には、AI界の重鎮Peter Norvig氏による記事「A man, a plan, a pointless (?) program」も投稿されており、そこから2005年の「Google Code Blog - Welcome to Code.Google.Com」へと、現在に続く巨大な技術発信の系譜が生まれていきました。現在は、更にブランドを変え「Google for Developers」で更新が続けられています。
Facebook - You can build a search engine
続いては、Facebook(現Meta)。 彼らは2008年5月にエンジニアリングブログをスタートさせています。
最初の執筆はFacebook初のプロダクトエンジニアリング担当ディレクターのAditya Agarwal氏でした。
We are going to use this space to tell you a little about the code and systems that power Facebook. We thought it would be fun to share what goes on behind the scenes...
「Facebookを動かすコードやシステムについて語る」「舞台裏(behind the scenes)を共有するのは楽しいことだと考えた」という、ポジティブな動機で始まっています。
また、記事の最後には技術的な話だけでなく、ブレイブボード(ripstiks)やDaft Punkなど、何がFacebookのエンジニアリングを動かしているのかも発信していくとあり、技術とカルチャーをセットで伝えようとする姿勢が当時から垣間見えます。
ちなみにAditya氏は、入社直後にザッカーバーグから「俺がFacebookを作れたんだから、お前も検索エンジンくらい作れるだろ(Dude, if I can build Facebook, you can build a damn search engine.)」という無茶振りをされ、一人で検索システムを書き上げたという逸話の持ち主です。
彼はこの「30秒間の出来事」を、自分の人生を決定づける瞬間だったと以下の動画の中で振り返っています。
この経験から、「自分たちがやろうと決めたことは何でも実現できる」という、当時のFacebookを象徴するハッカー文化や Can-do の精神を学んだと語っています。
GitHub - is officially live
そして、現代の開発者にとってなくてはならないGitHub。
彼らのブログの第一歩目は、当時のCEOであるChris Wanstrath氏による、サービス自体の正式ローンチを告げる記事でした。
いわゆる技術記事ではないですが、GitHubというプロダクトはそれそのものがテクノロジーの塊だと思うので、本記事を1記事目として取り上げるのがふさわしいと思いました。
本文は驚くほどシンプルで「GitHub is officially live.」という宣言と、ベータテスターへの感謝のみです。
印象的なのが「ここまでの道のりを長々と語るよりも、満足してくれているユーザーの声を紹介します」として、詳細はユーザーに委ねている点です。(リンク先が正式に web archive なのも面白い…w)
創業者のChris Wanstrathたちは、当時CNETの社員でした。平日は会社で働き、週末になるとサンフランシスコのスポーツバーに集まり、ビール片手にコードを書いていた所謂「週末ハッカー」でした。
この短いブログからは、長い能書き(pontificate)を必要としない、PMFの自信と開発者同士の阿吽の呼吸が聞こえてくるようです。
※GitHubの立ち上げ時のエピソードについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。
Netflix - software is our lifeblood
動画配信サービスのNetflixは、2010年12月1日に技術ブログを開設しています。
最初の投稿は、当時のVP 3名による連名という、珍しい形式で執筆されています。具体的には、Systems & ECommerce Engineering部門のVPであるKevin McEntee氏、VP of Personalization TechnologyのJohn Ciancutti氏、そしてデバイス担当であり現在NetflixのCo-CEOを務めるGreg Peters氏です。
一見すると、新しいブログの立ち上げを告げる丁寧な挨拶文に見えます。しかし、文中に記された「ソフトウェアは我々の生命線(lifeblood)である」という言葉には、真に生命線たる重い背景がありました。
実はブログ開設の2年前、2008年8月のこと。Netflixの自社データセンターで大規模なデータベース破損が発生し、丸3日間、DVDの出荷が完全に停止するという壊滅的な障害が起きました。当時の主力事業であるレンタルDVDが止まることは、会社の死を意味します。
「もう、ハードウェアの故障に運命を左右されたくない」
この悪夢をきっかけに、彼らは自社データセンターを捨て、当時はまだ安定しているとは言えない状況だったAWSへ全システムを移行するという、大胆な決断を下しました。
このブログは、そんな社運を賭けたクラウド移行の真っ只中に立ち上げられていることになります。3人の責任者が名を連ねたのは、「ハードウェアを持たない我々が、ソフトウェアの力だけで全てを制御してみせる」という、テックジャイアントとしての覚悟の宣言のように思えてきます。
もう一つ、彼らのプロ意識に痺れたエピソードがあります。ブログ開設からわずか9日後の記事「Why we use and contribute to open source software」で、Kevin McEntee氏は、商用ソフトウェアのベンダー選定についてこう綴っています。
ベンダーたちは私に、大リーグの観戦チケットや、ゴルフ旅行をオファーしてくる。私は野球もゴルフも大好きだ。だが、それらが『Netflixにとって最良の技術選定』と何の関係があるんだ? だから私は全て断っている。
接待や政治ではなく、純粋な技術的メリットだけで判断する。
記事の冒頭で「Netflix is a technology company」と言い切る彼らのブログからは、単なる動画配信屋ではなく、余計な駆け引きはせず、プロダクトと技術だけで勝負するんだという、清々しいほどのプロ意識を感じました。
最後に、現在のCTOであるElizabeth Stone氏が語る、最新の「Netflix Engineering Culture」の動画を紹介します。
2010年にブログで宣言された「我々はテックカンパニーである」というDNAが、規模が拡大した現代のNetflixにも脈々と受け継がれていることがよく分かります。技術も組織も巨大になりましたが、根底にあるのは変わらず優秀なエンジニアを信頼し、自由と責任を与えるというシンプルな哲学です。
完璧な計画よりも、熱量のある「第一声」を
改めて感じたのは、どの国のどの企業も、最初は立派なブランディング戦略ありきではなかったということです。
Googleはジョークから、GitHubはあまりにも短い報告記事、Netflixは危機からの脱却宣言でした。形こそ違えど、そこにあったのは自分たちのやっている面白いこと、難しい挑戦を誰かに伝えたいという、純粋なエンジニアリングの情熱そのものです。
採用やブランディングといった成果は、その情熱が積み重なった結果として、後からついてくるものなのかもしれません。
今でこそ雲の上の存在に見えるテックジャイアントたちも、最初は「マイク入ってる?」とおっかなびっくり声を上げたり、週末にビールを飲みながらコードを書いたりしていました。
2000年代初頭から続く彼らの足跡を辿ってみて、まさに「千里の道も一歩から」だと痛感しました。そこまで難しく考えず、まずは自分の中にある熱を言葉にすることから、技術発信の道を共に歩んでいきましょう。
