
サークルのチラシやイベントのWebページ制作など、デザイン専攻でなくても、大学生活には「伝えるために作る」場面が意外と多くあります。しかし“なんとなく作ってしまった”“ちゃんと伝わっているかな”……そんなモヤっとした経験はありませんか?
そこで今回、言葉のプロであるコピーライターの梅田悟司氏と、フォントのプロであるモリサワが、学生向けの講義&ワークショップイベントを開催。才能やセンスに頼らない「伝わる」言葉の作り方と、フォントの選び方を紹介しました。

第1部:梅田悟司氏講演 もっと『伝わる』言葉とフォントのえらびかた
梅田氏は冒頭、「言葉は誰でも使えるからこそ、あまり意識されません。今回は、普段何気なく使っている『言葉』を、どうすればきちんと伝わる形で運用できるのか、そのポイントをお話しします」と切り出し、講演をスタートしました。
- はじめに
- 自己紹介と大事にしていること
- 言葉を書き分ける技術
- 価値の3階層
- 僕なりのフォント観
- 質疑応答・議論

デザインも大事。その前に、言葉が大事
現在、私たちはさまざまな場所で文字を目にします。街中のポスター、テレビのテロップ、スマートフォンで見るニュース記事など。そこには、文字をより伝わりやすく見せるための「フォント」が使われています。
しかし、その大元になるものは言葉であり、どれだけフォントやデザインが洗練されていても、なんとなく作られた言葉は人に伝わりません。
重要なのは、「What to sayとHow to say」。つまり「何を伝えるか。それを、どう伝えるか」。この考え方は『言葉とデザイン』と言い換えることもできます。そして、両者をつなぐのに不可欠な要素が『フォント』です。
梅田氏はコピーライターの仕事で言葉を考えた後、「どのフォントが最適か」を自分でも考えると言います。デザイナーとも議論を重ね、「自分なりの最適を見つける」ことを大切にしているのです。

言葉の作り方に、才能やセンスは関係ない
そもそも「伝わる言葉」は、どのように作るのでしょうか。梅田氏は「言葉が降りてくるというイメージがあるかもしれませんが、実は言葉の作り方に、才能やセンス、国語の得意・不得意は関係ありません」と言い切ります。
「僕は理工系の大学で学び、広告代理店のマーケティング部門を経て、コピーライターになりました。そのため、どうしたらモノの良いところを引き出せるのか、どうやったら伝わる言葉に変換できるのか、そうした基本に忠実にコピーを書いてきました」
何かを作るとき、多くの人はつい「新しいものを作ろう」「個性的であろう」と考えがちです。安易な新しさや個性には注意が必要です。
個性も訓練によって磨かれます。「基本に忠実に」。でもそれがいちばん難しい。だからこそ、その先に個性が見えてきます。
また、コミュニケーションについても大切なことは、「『伝えるを、伝わるに変える』とよく言われます。でも作り手として最も重要なのは、『伝わると確信する』ことです」と強調します。伝える前に検討を重ね、「これなら伝わる」と確信する。伝えた後も「仮説通りに伝わった」という状態にする。それがクリエイターの仕事なのです。

言葉を書き分ける技術——言葉は、タダで作れる。検証できる
「言葉は、タダで作れる。検証できる」というメリットも挙げられます。紙とペンがあればできるし、頭の中でも作れます。こんなに効率的なツールは他にありません。コスパやタイパを重視するなら、言葉にこだわるべきです。
では具体的に、どのように言葉を書き分ければ「伝わると確信する」ことができるのでしょうか。梅田氏が勧めるのは、ブランド論でいう「価値の3階層」の活用です。
言葉を強くする考え方「価値の3階層」
梅田氏が例として挙げたのは「水」です。
まず、モノには「物性スペック」があります。記号でいえばH2O、容器は310mlのペットボトルといった情報です。ここでつい「持ち運びやすいサイズ」と言いたくなりますが、それは「利便性メリット」の階層に入ります。ここではあくまで、モノの話だけを考えます。
利便性メリットは他にも、「少量で会議にちょうどいい」などが考えられます。一方、「売上の一部が水源保全に使われる」となると、より大きな「役割・存在意義」の階層に入ります。
マーケティングの考え方に当てはめると、以下のように言い換えられます。
- 物性スペック → 機能的ベネフィット(モノの話)
- 利便性メリット → 情緒的ベネフィット(気持ちの話)
- 役割・存在意義 → 社会的ベネフィット(社会に対する意味の話)
これをスマートフォンに当てはめると、機能的ベネフィットは「電話・ネット・オーディオの統合」。情緒的ベネフィットは「最先端でオシャレな感じ」。そして社会的ベネフィットは「どこにいても何でもできること」。つまり、人を「場所」から解放する存在だといえます。
「価値の3階層を整理できれば、言葉は書けたも同然。あとは、書き分けて、議論して、選び、磨く。すると言葉はどんどん強くなります。仕事においても、機能・情緒・社会的意義を整理してから書きます。だから、いきなりコピーを出したりしないんですね。僕はこうした理論を積極的に使って、自分の力で言葉を作っています」

言葉を書き分ければ、フォントも自然と絞られる
「価値の3階層」で書き分けると、フォントも自然と絞られると梅田氏はいいます。
「例えば、社会的ベネフィットは『誠実』な言葉でなければ伝わりません。だから、誠実なフォントを考えてみる。情緒的ベネフィットは『台詞』ともいわれるので、誰の声なのかを想像してみる。機能的ベネフィットなら、きちんと『説明』できることが大切です。そうやって考えていくと、結果的にフォントも決まってきます」
最後に、言葉を作るときの心構えを教えてくれました。「僕は『言葉だけで成立する設計ができるか』を常に考えています。それは、ビジュアルに頼るのではなく、コピーだけで伝わる強い言葉を作ることです」と強調。さらに「文字」を価値の3階層に書き分けることで、自然とフォントも決まってくることを説明し、第二部のモリサワへの講演へとバトンタッチいただきました。
第2部:モリサワ講演 もっと『伝わる』ためのフォント選び
第2部ではモリサワが、フォント選びの考え方について解説しました。
伝えたい想いをフォントに落とし込む5つのコツ
例えば、キャンパスに掲示されたポスター。見る人は、一瞬で自分に関係があるかを判断します。そのわずかな時間で、伝わるかどうかを左右するのが「文字・フォント」です。だからこそ、伝えたいメッセージに適したフォント選びが重要になります。
今回は「南蛮屏風に描かれた人々」という美術館のポスター作成の際にどのようにフォントを選ぶのかを5つのコツとして紹介しました。

- 言葉(文字)を決める
フォントは声色を乗せるもの。まずは、伝えたい言葉を決めます。 - 用途を整理する
紙かWebか、縦書きか横書きか。見出しに使うのか本文に使うのかなどを整理します。 - どんな声色で届けたいかを決める
「現代的」「上品」「かわいらしい」など、言葉のイメージに合わせて声色を決めます。 - あたりをつける
モリサワには、イメージや用途で書体を整理した「書体見本帳」や、イメージワードから検索できる「フォントを探す」など、フォント選びをサポートするサービスが充実しています。 - フォントについて知る
フォントの成り立ちや特徴を知ると、より説得力のあるフォント選びができます。
フォントの選び方や使い方に正解はありません。しかし、ブレないコンセプトをもって適切に選び、使うことが重要です。なんとなくかっこいい、かわいいではなく、「伝わる」ためのツールとしてフォントを活用してみてください。
言葉とデザインがつながる「フォント体験」を学生特別価格で
講義終了後、会場参加者限定のプログラムとして、「言葉とフォントだけで新入部員募集チラシを作ろう」というワークショップも実施。参加者からは次のような感想が寄せられました。
言葉とデザインをつなぐ「フォント」。モリサワのサブスクリプションサービス「Morisawa Fonts」では、定番から個性的なものまで約3,500以上(2026年6月時点)のフォントを提供しています。第一線で活躍するデザイナーと同じ環境が、学生特別価格で年間990円(税込)。「伝わる確信」がもてるフォントが、きっと見つかるはずです。
最後までお読みいただきありがとうございました!

フォントへの意識が変わりました。WhatとHowを区別したり、基本にのっとったコピーライティングが重要であるという点が学びになりました。