地球星の宝石箱

惑星系アンソロジー

地球星

 

私が生をうけた平成初期の頃の世は

まだ昭和の面影が残っていて

住んでた家の近所には釣り堀と

真向かいには個人商店があった

 

釣り堀はほどよく古く、ほどよく臭う

屋内の、狭くもなく広くもない

中規模の施設だった

 

住宅街に、突然現れる釣り堀に

子供ながらに違和感を持っていた記憶がある

 

眩しい真夏の日に

ひとたび入り口を潜ると

ひんやりとした暗がりが奥まで広がっていて

光の落差に驚いた

 

湿気のある室内には

竿を垂らして釣りをするための

大きなプールのような水槽がいくつも並んでおり

おじさんたちがその淵に座っていたり

渡り廊下のように歩いたりして

ぞろぞろと屯していた

 

背の低い幼児にとっては

向こう側にある引き戸のある廊下まで

水面が続いているように見えた

 

併設して小売のコーナーもあり

庶民に親しみのある魚も売っていた

 

地元のお祭りで獲ってきた金魚の

仲間をつくってあげようと思って

金魚とメダカ数匹を買ってもらって

自宅の水槽に加えた

 

ーーー

 

釣り堀の向かい側

道路を挟んで目と鼻の先にある

個人商店のおじさんとおばさんもいい人達で

すれ違う時に挨拶してくれた

 

おじさんは威勢と愛嬌があり、誰にでも仲良く振る舞い、おばさんは物静かで、店番をしていて、いつも太っていた

 

駅からの帰り道、家に着く前に立ち寄って

生活に足りない小物をちょっとだけ買って帰るのに利用していた

 

当時、初めて買ったチョコボールの蓋に付いていたエンゼルマークの意味がよくわからなくて

何それ?って年下の子に聞かれて

分からない、って答えたのを覚えている

 

おばさんは

お店の余った商品に付いている券を集めて様々な懸賞に応募していたようで

店に行くと、レジの際、たまに当たった景品を見せてくれた

 

バナナとクリームを包んだスポンジケーキ菓子に付いているシールをたくさん集めて応募し、獲得したブランケットを大きく広げて

少しだけ気恥ずかしそうに

でも照れたように語っていた

慎ましい日常の風景だった

 

ーーー

 

おばさんは、ある日、

心臓病で亡くなった

店の前に張り紙が貼ってあった

 

まもなくして、個人商店から数十メートル離れた所、駅に向かう道のりに

大手チェーンのスーパーマーケットができた

 

商店は閉店が決まり、あまり時が立たないうちに、通りから中が透けて見えるような廃屋になっていた

 

釣り堀も、記憶にないけれど

生活を送っているうちに

静かに姿を消していた

 

双方とも取り壊され

跡地には、マンションが建った

 

 

 

朝の挨拶

 

朝早い電車や、飛行機に乗っている時に

「おはようございます」

から始まる場内アナウンスに出くわすと

少しだけ、いい気分になる

 

***

 

それは、まるで

車窓から差し込んできた朝日が

朝の挨拶とぶつかって

 

衝突で砕けたダストが

キラキラと光る粉になって

輝きを放ちながら

辺りに舞い散るみたいに

 

ありふれた日常に切り込んで

少しだけ別の姿にしてくれる

新しい空間を拓いていく言葉

 

光の魔法がかかる車内

一日の始まりという祝福がなされる

 

しばらく走ると 電車は

地下トンネルに向かっていく

揺れと音が強まり

人に揉まれて 群衆に塗れて

 

朝の挨拶の効力は

あまり長くは続かない

 

***

 

飛行機の内は

大抵、まだ暗いままで

 

昨日と地続きの地平を

地球のかたちに沿って進む

前日を引きずった生ぬるいままの認識と

乗り物のストレスを受けた

気だるげな肉体を起こしては

 

到着する国はまさに近づいていて

もうじき敷地に入るのだと

興奮のスイッチが僅かにかかったのを感じていた

 

暗い機内が突然明るくなる時

朝の挨拶が、昨日と今日に一線を画す

 

「おはようございます」

 

そうだ、地球は一つだったのだと

今日は新しく始まるのだと

期待を胸に体を振るわせる

 

機内食を載せたカートが横切っていく

目的地にいよいよ着くのだと

高まる胸を膨らませながら

まだ少しだけ早い入国の

支度をしようとする

 

 

日曜日、午後6時のトワイライト

 

大好きな人に会いたくなる

日曜日

 

テレビでは、笑点がかかっていて

ちびまる子ちゃん、サザエさんと続いていく

幼少期からお馴染みの

穏やかな時の流れがあった

 

昼と夜が入れ替わる日没

トワイライトは地平線を映し出して

無限の広がりを感じさせて

海外への扉が開かれるようで

 

手招きしては連れて行ってくれるようで

こちらから向かいたくなるようで

何処にでも繋がっているようで

本当に、何処へでも行けるような気持ちだった

 

一週間の終わりと始まりの間(はざま)

地球の淵にある

世界中の国々を連想していた

 

エロール・ル・カインの絵本や

千夜一夜物語 (アラビアンナイト)

著名人の紀行エッセイを読み耽った

 

異国の文化や音楽を宝物のように思っては

広がっていく人生を夢に描いて

沈みゆく太陽を、見ていた

 

暗闇 入り混じる夕焼けを眺めながら

子ども時代の熱が

まだ少しだけ、手のひらに残っていた

 

 

番外編 日曜日

日曜日は好きだ

皆が集い、会えるような気がするから

 

何かが死に、何かが終わり

新しい生が始まるような気がするから

 

空が高く、広く感じられて

何処へでも行けそうな気がするから

 

昼と夜が交差する黄昏時にも

心は微細に揺れ動きながら

希望の音を聴いている

 

繋がれている気がするから

過去とも未来とも、誰とでも

 

日曜日は、ある種のカタルシス

大聖堂に赴き、喫食を共にし、家に帰る

 

愛を感じられるから

日曜日が好き

 

日没とともに人の気が引いていく

夜半を過ぎて

一週間のうち最も静まり返る闇の中

一度、無になる

 

朝には戻る

 

7月の空

 

ご飯を食べよう

みんなで

 

おじいさんもおばあさんも

下の階に住む幼なじみのお兄ちゃんも

飼い犬のはるも

小さなけんたくんも

温かいパパも 角刈りがかっこいいママも

 

商店のおじさんも

亡くなったおばさんも

猫も鳥もてんとう虫も水も草花も

みんなで

ご飯をいただこう

 

外は渦巻くネイビーブルー

部屋には穏やかな明かり

 

ビールを開けてお肉を切ってお野菜もどうぞ

暑いからエネルギーを摂って

乗り切っていかなきゃいけないね

 

踊る人は踊り

眠る人は眠り

豊穣と酩酊の神が空を舞う

 

そうやって 夜深くまで

巨大な熱の塊が顔を出すまで

たくさんの人が道を歩き始めるまで

 

 

"ポイ活JAPAN"

 

スマホ持って、SNSにアクセスして、動画サービス見てエクスタシーに達して、ゲームに多少の課金して、コンビニ行って、通販サイトと輸送・運搬会社を経由してモノを売り買いして、電子マネーで決済して、交通機関に乗って、人材斡旋サイト見てバイトして髪切って、Webコンテンツ見て、推し活でバーチャル性愛して、回転寿司、外食喫茶チェーン店、ラーメンで食事して、100円ショップ、大手衣料品店で買い物して、不動産建設の大型施設でショッピングして楽しみながら時間潰して、公共料金はカードで引き落としにして、スーパー行って、プラスチック包装の食品を買って、人気アニメのキャラクター商品を手に取って、たまにパチンコ・スロット、時に風俗と行って、宿泊所利用して、閉店跡地にはガチャガチャ、ゲームセンター、電気屋、ドラッグストアが建つ。欲望を、制度とシステムのなかで消化する。ポイ活して、地味に慎ましく生活することに慣れた気はしてる。生きるために。

.

ー"ポイ活JAPAN"

Image