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マガジン一覧

縁蟲綺譚 EP.1(悔いの糸、光の底で)

言えなかった言葉は、どこへ行くのだろう。 謝れなかったあの日、伝えそびれたありがとう、飲み込んだまま時間が過ぎた言葉たちは——消えたのではなく、どこかで待っているのかもしれない。 世界観で描く、後悔と縁と言葉の物語。

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【掌編小説】『悔いの糸、光の底で(第5話)』

はじめに本作は、『縁蟲綺譚』シリーズのエピソード1(悔いの糸、光の底で)になります。 タイトル『悔いの糸、光の底で(第5話:「旅の続きへ」)』 本文 昼になった。 廃村に昼の光が降り注ぐのを、ミオは初めて見た。 霧が晴れていた。 杉の木立の向こうに青い空があった。 空が青いだけで、こんなに場所の印象が変わるものかとミオは思った。 廃村はまだ廃村だったが、それは単なる「終わった場所」ではなく、「次の始まりを待っていた場所」のように見えた。 老人ジンは、縁側でゆっくり

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【掌編小説】『悔いの糸、光の底で(第4話)』

はじめに本作は、『縁蟲綺譚』シリーズのエピソード1(悔いの糸、光の底で)になります。 タイトル『悔いの糸、光の底で(第4話:「言葉の正体」)』 本文 泉は静かだった。 三人が淵の前に立った時、東の空が微かに白み始めていた。 夜と朝の境目——光が最も不確かになる時間に、この場所は最も透明になるとサヨは感じた。 空気の粒が見えるような、凛とした冷たさ。 サヨの吐く息が白く、ミオの吐く息が白く、老人の吐く息が白く——三つの白さが混じって霧になって、泉の水面を這った。

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【掌編小説】『悔いの糸、光の底で(第3話)』

はじめに本作は、『縁蟲綺譚』シリーズのエピソード1(悔いの糸、光の底で)になります。 タイトル『悔いの糸、光の底で(第3話:「泉の底」)』 本文 夜が一番深くなる頃、サヨは一人で外に出た。 眠れなかったわけではない。 糸が呼んでいた——そう言えば正確だろうか。 老人ジンの体から伸びる、あの細い金色の糸が、夜になるほど光を強めて、サヨの意識を引っ張った。 蟲使いにはそれが見えないが、糸見師のサヨには手に取るように見えた。 糸は村の外れに向かっていた。 草を踏みながら

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【掌編小説】『悔いの糸、光の底で(第2話)』

はじめに本作は、『縁蟲綺譚』シリーズのエピソード1(悔いの糸、光の底で)になります。 タイトル『悔いの糸、光の底で(第2話:「影の顔」)』 本文 その夜、ミオは眠らなかった。 ​ ​ 老人が床に入るのを確認してから、ミオは行灯の明かりを落とし、部屋の隅で影蟲を観察し続けた。 ​ ​ 影は月が雲に隠れると濃くなり、老人の眠る布団の横で、床を這うように動いた。 ​ その動きには、ミオが今まで見てきた影蟲とは異なる質感があった。 ​ ​ 通常、影蟲は宿主の痛みを食い物にしなが

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ムネモシュネ EP.1 記憶書庫の国

記憶は、誰のものですか? もし、あなたのすべての経験が言葉になり、他者と共有されたら。 もし、「私」という感覚が薄れ、「私たち」の一部になったら。 それは理想の世界? それとも── 旅人シオンが訪れたのは、記憶を共有する国「ムネモシュネ」。 この国では、個人の記憶は中央塔に奉納され、集合知として保存される。 争いのない平和な社会。 しかし、そこで失われたものとは。 三日間の滞在で出会った三人。 最後まで抵抗した老学者。 愛のために記憶を売る少女。 善意に満ちたシステムの執行者。 彼らの選択は、「私であること」の意味を問いかける。 思索的ファンタジー。 読後、あなたの記憶の意味が、少し変わるかもしれません。

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【掌編小説】『記憶書庫の国(第5話)』

はじめに本作は、『ムネモシュネ』シリーズのエピソード1(記憶書庫の国)になります。 タイトル『記憶書庫の国(第5話:体が覚えている愛)』 本文病院は街の西端にあった。 白い建物。 やはり装飾はなく、機能だけを追求した形。 入口には「癒しの家」と書かれた簡素な看板。 シオンが入ると、エコーが待っていた。 彼女は林檎の袋を抱えていた。 しかし、その表情は朝とは違っていた。 決意に満ちている。 「シオンさん」 「来たよ」 「ありがとうございます。母の病室、一緒に

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【掌編小説】『記憶書庫の国(第4話)』

はじめに本作は、『ムネモシュネ』シリーズのエピソード1(記憶書庫の国)になります。 タイトル『記憶書庫の国(第4話:集合記憶の塔)』 本文病院へ向かう前に、シオンは一度宿に戻った。 宿の主人に、塔への入場許可について尋ねると、「審査が通りました。今日の午後なら入れます」と告げられた。 シオンは時計を見た。 今は正午。 エコーとの約束は三時。 それまでの時間で、塔を見学できる。 中央塔へ向かう道すがら、シオンは街の様子を観察した。 三日間この国にいて気づいたことが

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【掌編小説】『記憶書庫の国(第3話)』

はじめに本作は、『ムネモシュネ』シリーズのエピソード1(記憶書庫の国)になります。 タイトル『記憶書庫の国(第3話:記憶を売る少女)』 本文三日目の朝、シオンは重い気持ちで目を覚ました。 昨日のアルカの姿が、脳裏から離れない。 あの穏やかな笑顔。 すべてを失った後の、空虚な平和。 シオンは窓を開けた。 今日も快晴。 変わらぬ白い街。 しかし今日は、この国を去る日だ。 最後にもう一度、市場を見ておこうと思った。 市場は朝から賑わっていた。 といっても、声高な呼

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【掌編小説】『記憶書庫の国(第2話)』

はじめに本作は、『ムネモシュネ』シリーズのエピソード1(記憶書庫の国)になります。 タイトル『記憶書庫の国(第2話:最後の個人主義者)』 本文 二日目の朝、シオンはアルカの家を訪れた。 ​ ​ 住所は街の外れ、塔から最も遠い場所だった。 ​ まるで意図的に距離を置いているかのように。 ​ ​ 家の外観は他と変わらない白い石造りだが、窓からは本が積まれているのが見えた。 ​ この国で初めて見る「乱雑さ」だった。 ​ ​ 扉をノックすると、すぐにアルカが現れた。 ​ ​ 「

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名前のない鞄

「もし、あなたの親友が、死に際にこう言ったらどうしますか?」 「自分が生きた証を、すべて焼き捨ててほしい。一文字も残さず、灰にしてくれ」 これは、歴史の激流に飲み込まれようとしていた一人の男と、彼が命を懸けて守り抜いた「ある鞄」の物語です。

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【掌編小説】『名前のない鞄(第13話)』

はじめに本作は、『名前のない鞄』シリーズになります。 タイトル『名前のない鞄(第13話:分岐点の迷宮)』 本文列車が完全に停止する前から、男とエルザは貨車を飛び降りていた。 そこはポーランド国境へと続く巨大な操車場、主要分岐点駅。 数えきれないほどの線路が網の目のように走り、巨大なクレーンが空を威圧するように聳え立っている。 「ここで捕まったら、もう次はないわ」 エルザが男の手を引く。 背後では、到着した貨車の扉が次々と乱暴に開けられ、兵士たちの怒号と犬の咆哮が夜

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【掌編小説】『名前のない鞄(第12話)』

はじめに本作は、『名前のない鞄』シリーズになります。 タイトル『名前のない鞄(第12話:回想のカフェ・アルコ)』 本文貨車の揺れに身を任せていると、意識は再び、灰色のプラハではなく、黄金色に輝く数年前のカフェへと飛んでいた。 プラハの街角にある「カフェ・アルコ」。 そこは、作家や記者が集まり、紫煙と議論が渦巻く知的な聖域だった。 男はいつもその中心にいた。 華やかに語り、新作を批評し、仲間たちに囲まれる――それが「成功した作家」としての男の日常だった。 だが、親友

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【掌編小説】『名前のない鞄(第11話)』

はじめに本作は、『名前のない鞄』シリーズになります。 タイトル『名前のない鞄(第11話:氷点下の対話)』 本文無蓋(むがい)貨車の上は、吹き曝しの地獄だった。 屋根のない鉄の箱は、夜の冷気をそのまま溜め込み、走る速度に合わせてナイフのような風が男たちの頬を削っていく。 「これ、使って」 エルザが自分の薄い毛布を広げ、男の肩に掛けた。 二人は貨車の隅に身を寄せ合い、互いの体温だけを頼りに震えていた。 「……君は、なぜあんな危険な真似をしたんだ」 男は凍えた声で尋ね

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【掌編小説】『名前のない鞄(第10話)』

はじめに本作は、『名前のない鞄』シリーズになります。 タイトル『名前のない鞄(第10話:雪原の追跡)』 本文窓から飛び降りた衝撃が、男の足首を鋭く刺した。 積もった雪がクッションとなったが、それでも肺の空気がすべて押し出されるような衝撃だった。 「こっちよ! 急いで!」 先に着地していたエルザが、闇の中から手招きする。 男は鞄の角が脇腹に食い込むのも構わず、無我夢中で雪を蹴った。 背後の駅長室から、ハンス少佐の怒号が響く。 「逃がすな! 撃て!」 直後、乾いた

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深淵のカノン EP.1(深淵のカノン)

「失うほど、本物に近づく。」 地の底へ続く巨大な縦穴《深淵》を抱える管理都市・リムズ。 深淵士の娘・ルカは、五年前に失踪した母の手記を手に、禁断の縦穴へと降り始める。 降りるたびに身体が変容し、記憶が揺らぎ、「自分」の輪郭が溶けていく。 それでも彼女は止まれない。 母の声が、底から呼んでいるから。

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【掌編小説】『深淵のカノン(第5話)』

はじめに本作は、『深淵のカノン』シリーズのエピソード1(深淵のカノン)になります。 タイトル『深淵のカノン(第5話:「底の答え」)』 本文第十一層は、音がなかった。 それまでの全ての層に存在した「深淵の声」が、ここでは静まり返っている。 音ではなく、存在、として満ちている何か。 ルカは足を踏み入れた瞬間、息が詰まった——苦しいのではなく、満ちすぎて処理が追いつかない感覚。 光がある。 壁中から滲み出す青白い光。 遺物でも苔でもない。 それは——記憶の光だ、とル

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【掌編小説】『深淵のカノン(第4話)』

はじめに本作は、『深淵のカノン』シリーズのエピソード1(深淵のカノン)になります。 タイトル『深淵のカノン(第4話:「白骨の誓い」)』 本文第九層は、白かった。 壁も床も天井も、白い発光苔に覆われ、ほのかに揺れる光の中に、いくつもの人影が沈んでいる。 人影——いや、人だったものが、苔に取り込まれて、壁と一体化している。 骨格だけが残り、その上に苔が繁茂し、美しくも残酷な「標本」になっていた。 探索者の墓場だった。 ルカは足を止めた。 数えると、七体。 中には明

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【掌編小説】『深淵のカノン(第3話)』

はじめに本作は、『深淵のカノン』シリーズのエピソード1(深淵のカノン)になります。 タイトル『深淵のカノン(第3話:「変容」)』 本文第七層に足を踏み入れた瞬間、ルカは世界が変わったと感じた。 音が変わった。 これまでの低い振動音に加えて、高い音が混じり始める。 まるで、誰かが遠くでガラスのハーモニカを奏でているような、かすかで透明な音。 そしてその音が、色を持って見えた。 青い。 音が、青い光の粒子として視界に漂っている。 ルカは目を細めた。 これは深度病の

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【掌編小説】『深淵のカノン(第2話)』

はじめに本作は、『深淵のカノン』シリーズのエピソード1(深淵のカノン)になります。 タイトル『深淵のカノン(第2話:「中層の嘘」)』 本文 第五層は、リムズから見た世界とはまるで違う顔をしていた。 ​壁面から結晶が生えている。 ​ ​透明な、ガラス質の突起が、无数に、まるで逆向きのつらら群のように天井から垂れ下がり、床から生え上がり、光を反射して七色に乱反射している。 ​ ​ルカのランプを消しても完全な暗闇にはならない——結晶自体が微弱な光を発しているのだ。 ​ ​ まる

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春の狛犬 EP.1(何度でも、君の隣に)

「助けたかった。何度でも、何百回でも。でも——助けようとするたびに、俺は君から遠ざかっていた」 親友を救うために、何度も人生をやり直す。 でも、最後の最後まで「助けられない」男の話。 これは失敗の物語ではありません。 「本当の隣にいること」を見つけるまでの旅の話です。

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【掌編小説】『何度でも、君の隣に(第6話)』

はじめに本作は、『春の狛犬』シリーズのエピソード1(何度でも、君の隣に)になります。 タイトル『何度でも、君の隣に(第6話:エピローグ「一度きりの秋」)』 本文九月の光は、夏より少しだけ柔らかかった。 桐島悠は、三十歳のまま、実家の縁側に座っていた。 ループは終わった。 百回分の春と夏が、悠の記憶の中に積み重なったまま、時間は「今」に戻ってきた。 陽介が死んだ世界ではなく、陽介が生きている世界の「今」に。 どういう仕組みなのかは分からない。 気が付いたら、葬儀の朝

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【掌編小説】『何度でも、君の隣に(第5話)』

はじめに本作は、『春の狛犬』シリーズのエピソード1(何度でも、君の隣に)になります。 タイトル『何度でも、君の隣に(第5話:ただ、隣に)』 本文九十九回目のループが終わったとき、悠は初めて「もう終わりにしたい」と思った。 疲れていた。 二十歳の体に、百回分の記憶が詰まっていた。 百回の春、百回の夏、百回の別れ。 人間の心が、それだけの重さに耐えられるものなのか、悠には分からなかった。 ただ、もうずっと疲れていた。 ループが終わらないのは、何かがまだ「足りない」からだ

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【掌編小説】『何度でも、君の隣に(第4話)』

はじめに本作は、『春の狛犬』シリーズのエピソード1(何度でも、君の隣に)になります。 タイトル『何度でも、君の隣に(第4話:何もしない、ということ)』 本文八十一回目のループが始まった朝、悠は一つの決断をした。 「今回は、陽介を救おうとしない」 それがどれほど難しいことか、悠には分かっていた。 八十回の失敗を経た後でも、「助けなければ」という衝動は消えなかった。 体に染み込んだ反応のように、陽介の顔を見るたびに「どうすれば救える」という思考が走った。 でも今回は、

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【掌編小説】『何度でも、君の隣に(第3話)』

はじめに本作は、『春の狛犬』シリーズのエピソード1(何度でも、君の隣に)になります。 タイトル『何度でも、君の隣に(第3話:直接、問うこと)』 本文五十一回目のループ。 悠は決断した。 もう遠回りはしない。 直接、陽介に聞く。 「死にたいと思ってるか?」 この問いを口にするまでに、五十回の失敗が必要だった。 六月の夕方、二人で商店街を歩いていた。 シャッターの閉まった古い洋品店の前、錆びた看板に夕日が反射している。 足元に影が伸びて、二人の影が重なり合って、

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言ノ宮奇譚 EP.1(嘘と名前と、君の怪)

「あなたの名前を、ちゃんと呼べる人が、この世界にいますか?」 怪異が存在する日常に生きる高校生の物語。 名前を食べる怪異、嘘しか言えない神様、影から本音が聞こえる少年——言葉と存在の不思議な関係を描く、和風怪異青春小説。 言ノ宮市に暮らす高校生・夜見坂透には、他者の影から「本音の声」が聞こえるという秘密があった。ある五月の夜、河川敷で奇妙な黒い靄と出会い、翌日、名前を誰にも呼んでもらえない転校生・白瀬言葉と出会う。彼女の名前は「言霊喰い」という怪異に侵食されていた——透は廃図書室に封じられた「嘘しか言えない神様・偽言神」の導きのもと、怪異に立ち向かう。しかしその戦いは、透自身が長年封じてきた「本音」と向き合う旅でもあった。名前を呼ぶこと、本音を言うこと——言葉の持つ力と重さを問う、和風怪異青春小説。

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【掌編小説】『嘘と名前と、君の怪(第6話)』

はじめに本作は、『言ノ宮奇譚』シリーズのエピソード1(嘘と名前と、君の怪)になります。 タイトル『嘘と名前と、君の怪(第6話:エピローグ「七月の朝」)』 本文 七月の朝は、光の速さで来る。 言ノ宮市は、何事もなかった顔をしていた。 「言葉が出てこない」という症状は、気がつけば人々の日常から消えていた。 誰も怪異の存在を覚えていない——ただ、言葉だけが、市内の空気の中に、少し多めに流れているような気がした。 透は朝食の後、スマートフォンを取り上げて、父に電話をかけた。

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【掌編小説】『嘘と名前と、君の怪(第5話)』

はじめに本作は、『言ノ宮奇譚』シリーズのエピソード1(嘘と名前と、君の怪)になります。 タイトル『嘘と名前と、君の怪(第5話:名前を呼ぶ声)』 本文 言霊喰いが実体化したのは、六月の終わり、言霊神社の境内だった。 梅雨の夜、雨が上がった直後の参道は濡れた石畳が光を反射し、ぼうっと白く光っていた。 透と言葉は連絡を取り合い、神社に急いだ。 「怪異がそこにいる」と感じたのは言葉だった——名前を食われている側には、怪異の気配が分かるのだ。 境内の中央に、それはいた。

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【掌編小説】『嘘と名前と、君の怪(第4話)』

はじめに本作は、『言ノ宮奇譚』シリーズのエピソード1(嘘と名前と、君の怪)になります。 タイトル『嘘と名前と、君の怪(第4話:本音の迷宮)』 本文 六月に入ると、言ノ宮市内で奇妙な現象が広がり始めた。 「あの人の名前が思い出せない」 「言いたい言葉が出てこない」 ——そういった症状の市民が増え始めた。 コンビニのレジで店員が突然黙り込む。 バスの車内放送が途中で止まる。 学校の朝礼で、校長が自分の言葉を忘れる。 言霊喰いが成長している。 透は自分の力を使い、町

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【掌編小説】『嘘と名前と、君の怪(第3話)』

はじめに本作は、『言ノ宮奇譚』シリーズのエピソード1(嘘と名前と、君の怪)になります。 タイトル『嘘と名前と、君の怪(第3話:嘘つきの神様)』 本文 廃図書室は、本校舎と繋がる渡り廊下の突き当たりにあった。 言ノ宮高校には旧校舎と新校舎があり、廃図書室は旧校舎の最奥部に位置していた。 扉には「立入禁止」の張り紙があったが、鍵はかかっていなかった。 言葉は「ここ、なんか気配がある」と言い、透は「気配、という言葉を信じるタイプじゃない」と言いながらも、扉を開けた。 扉

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記憶封神戦記 EP.1 忘却の神々

灰色の空から、雪が舞い落ちていた。 いや、雪ではない。 燃え尽きた街から舞い上がる灰だ。 最後の戦場となった都は、もはや廃墟と化していた。 かつて賑わっていた市場も、子供たちが走り回っていた広場も、全てが瓦礫の山に変わっていた。 戦場の中心に、二人の人物が向かい合って立っていた。

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【掌編小説】『忘却の神々(第18話)』

はじめに本作は、『記憶封神戦記(きおくほうしんせんき)』シリーズのエピソード1(忘却の神々)になります。 タイトル『忘却の神々(第18話:エピローグ「新しい朝」)』 本文それから、一年が経った。 世界は完全に変わった。 記憶管理は違法となり、全ての人が自分の記憶を自分で管理している。 混乱もあったが、人類は乗り越えた。 僕は今、大学一年生。 心理学を専攻している。 人の心と記憶について、もっと学びたいと思ったからだ。 あかりも同じ大学に入学し、今は僕の恋人だ。

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【掌編小説】『忘却の神々(第17話)』

はじめに本作は、『記憶封神戦記(きおくほうしんせんき)』シリーズのエピソード1(忘却の神々)になります。 タイトル『忘却の神々(第17話:解放された世界)』 本文その日から、世界は変わった。 記封局は完全に解体された。 封印されていた記憶は、全て持ち主に返された。 最初は混乱があった。 突然、失われた記憶を取り戻した人々は戸惑い、中には精神的なショックを受ける者もいた。 しかし、人類は適応した。 真実を知り、過去と向き合い、そして前に進むことを選んだ。 「蓮くん

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【掌編小説】『忘却の神々(第16話)』

はじめに本作は、『記憶封神戦記(きおくほうしんせんき)』シリーズのエピソード1(忘却の神々)になります。 タイトル『忘却の神々(第16話:真実の封神)』 本文光が収まった時、天帝の姿は変わっていた。 中性的な美貌はそのままだが、表情が穏やかになっている。 黒い衣装は白に変わり、禍々しいオーラは消えていた。 「私は...」 天帝は自分の手を見つめた。 「何千年ぶりだろう。この感覚は...」 「アナタハ元々、人間ダッタ」 紅葉が言った。 「人類ノ負ノ感情ガ集マッ

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【掌編小説】『忘却の神々(第14話)』

はじめに本作は、『記憶封神戦記(きおくほうしんせんき)』シリーズのエピソード1(忘却の神々)になります。 タイトル『忘却の神々(第14話:天帝降臨)』 本文天帝の登場で、空間全体が凍りついた。 その存在感は、これまで戦ってきたどの敵とも比べものにならない。 まるで、この空間の法則そのものが天帝の支配下にあるかのようだった。 「天帝...!」 焔が前に出た。 「千年ぶりね。まだ人類を支配するつもり?」 「支配?」 天帝は嘲笑した。 「違うな。私は管理しているだ

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FLARE EP.1(炎の子リオと精霊の誓い)

燃えさかる運命の中で、一人の少年は「誓い」を知る。 大災害に見舞われた村で生きる少年リオは、火の精霊イフリートとの出会いをきっかけに、自らの力と向き合う冒険に旅立つ。 この物語は、「希望の火」を継ぐ子どもたちの、命と選択の記録。 【FLAREシリーズ 第1弾】 壮大な自然の力と、少年少女たちの成長を描く幻想冒険譚。

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【オーディオブック】『FLARE EP.1(炎の子リオと精霊の誓い)』

◆シリーズ案内◆プロローグ◆第1章「火の子リオ」◆第2章「森の出会い」◆第3章「炎を試すとき」◆第4章「旅立ちの朝」◆第5章「魔法学院の門」◆第6章「試練の迷宮」◆第7章「精霊の秘密」◆第8章「帰郷の道」◆第9章「黒炎の影」◆第10章「炎の誓い」◆第11章「新たな灯(ともしび)」◆エピローグ「灯を継ぐ者へ」

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【掌編小説】『炎の子リオと精霊の誓い(第12話)』

はじめに本作は、『FLARE』シリーズのエピソード1になります。 タイトル『炎の子リオと精霊の誓い(第12話:エピローグ「灯を継ぐ者へ」)』 本文どんなに深い夜の中でも、炎は消えない。 リオがともした火は、もう彼ひとりのものではない。 それは村の希望となり、仲間たちの絆となり、誰かの中に、そっとともる勇気になった。 そして今も、どこかで誰かが――小さな手で、そっと火を灯しているかもしれない。 こわがらずに。 壊さずに。 誰かを、あたためるために。 それがきっと、

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【掌編小説】『炎の子リオと精霊の誓い(第11話)』

はじめに本作は、『FLARE』シリーズのエピソード1になります。 タイトル『炎の子リオと精霊の誓い(第11話:新たな灯(ともしび))』 本文朝の光が、エン=テラの村をやさしく包んでいた。 かつては「火を忌む村」と言われたこの場所に、今では子どもたちの笑い声と、ぽうっと灯るあたたかな炎が共にある。 リオは、村の広場に腰を下ろしながら、少年の手のひらに小さな炎を灯してみせた。 「こう。力で押しつけないで、心で話しかけるように……そう、やさしく」 少年は真剣な顔でうなず

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【制作ノート】FLARE EP.1(炎の子リオと精霊の誓い)

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童話の終わり方 EP.1(役割を与えられた牙)

あなたは、この物語の結末を知っているかもしれません。 けれど、それが誰の結末なのかまでは、考えたことがなかったかもしれません。 多くの物語には、あらかじめ用意された役割があります。 守られる者。 脅かす者。 正す者。 そして、安心できる終わり。 それらは、とても分かりやすく、世界を理解しやすくしてくれます。

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【掌編小説】『役割を与えられた牙(第8話)』

はじめに本作は、『童話の終わり方』シリーズのエピソード1(役割を与えられた牙)になります。 タイトル『役割を与えられた牙(第8話:エピローグ「森のその先で」)』 本文森は、何事もなかったかのように息をしている。 倒れた場所に、血の匂いは残らない。 踏み荒らされた土も、やがて雨に均され、風に撫でられて消えていく。 物語は、正しく終わった。 守られるべき存在は守られ、脅かす存在は排除され、教訓は静かに回収された。 それで、この森は再び安全な場所になった――少なくとも、

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【掌編小説】『役割を与えられた牙(第7話)』

はじめに本作は、『童話の終わり方』シリーズのエピソード1(役割を与えられた牙)になります。 タイトル『役割を与えられた牙(第7話:遅れて届く名前)』 本文衝撃は、音よりも先に来た。 空気が裂け、世界が一瞬、静止する。 私は地に伏し、土の冷たさを、頬で感じていた。 視界は低く、木々の根が、絡み合って見える。 それでも、耳だけはまだ働いていた。 人間の声がする。 安堵した調子。 柔らかく、教えるような口調。 私に向けられたものではない。 「よかったね」 その言葉が

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【掌編小説】『役割を与えられた牙(第6話)』

はじめに本作は、『童話の終わり方』シリーズのエピソード1(役割を与えられた牙)になります。 タイトル『役割を与えられた牙(第6話:選択肢がない)』 本文私は走った。 逃げるためではない。 生き延びるためでもない。 ただ、まだ残っている可能性があるかどうかを、確かめるために。 足場の悪い斜面を選び、視界の切れる場所を抜け、風下へ回る。 これまで何度も繰り返してきた動きだ。 だが、身体が覚えているはずの判断が、今は意味を持たなかった。 走れば、「逃げる凶暴な獣」になる

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【掌編小説】『役割を与えられた牙(第5話)』

はじめに本作は、『童話の終わり方』シリーズのエピソード1(役割を与えられた牙)になります。 タイトル『役割を与えられた牙(第5話:正しさの足音)』 本文その音は、森のものではなかった。 重い。 規則的で、ためらいがない。 葉を踏み、枝を払っても、速度が落ちない足音。 私は耳を伏せた。 空気に混じる匂いが変わる。 鉄。 油。 乾いた火の気配。 人間だ。 だが、あの小さな足音とは違う。 この存在は、森を歩くのではなく、森に“入ってくる”。 私はすぐに理解した。 こ

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除霊事務所は今日も赤字 EP.1(除霊事務所は今日も赤字)

祖母の遺した「鬼塚除霊事務所」を継ぐことになった22歳の凛。霊感はないが交渉力だけはある彼女の元に集まったのは、数百年生きる毒舌の使い魔・白と、冥界のシステムに反旗を翻した幽霊コンサルタント・玲。三人の凸凹チームが「成仏できない霊たちの未練」を解決していく中で、凛自身の隠された正体と、仲間たちの過去の秘密が少しずつ明かされていく——。

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【掌編小説】『除霊事務所は今日も赤字(第6話)』

はじめに本作は、『除霊事務所は今日も赤字』シリーズのエピソード1(除霊事務所は今日も赤字)になります。 タイトル『除霊事務所は今日も赤字(第6話:エピローグ「商店街」)』 本文事件の翌週、商店街は普通だった。 錆びたアーケード、閉まったシャッター、猫、猫、それから猫。 何も変わっていないし、何かが静かに変わっていた。 鬼塚除霊事務所の看板は、凛が新しいペンキで塗り直した。 「除」の字が完全に復活した。 それだけだったが、なぜかすっきりした。 「赤字は継続しています

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【掌編小説】『除霊事務所は今日も赤字(第5話)』

はじめに本作は、『除霊事務所は今日も赤字』シリーズのエピソード1(除霊事務所は今日も赤字)になります。 タイトル『除霊事務所は今日も赤字(第5話:戦時体制)』 本文玲が情報を整理し、白が霊的な防御を施し、凛が「交渉戦略」をノートに書き続けた。 商店街の知人たちにも一応の「連絡」を入れ(「何かあったら警察を呼んでください」という曖昧な連絡だったが)、万全の準備——とは言えないが、やれることはやった。 石峰は約束の時間ぴったりに現れた。 今日は名刺を出さなかった。 スー

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【掌編小説】『除霊事務所は今日も赤字(第4話)』

はじめに本作は、『除霊事務所は今日も赤字』シリーズのエピソード1(除霊事務所は今日も赤字)になります。 タイトル『除霊事務所は今日も赤字(第4話:夢の中)』 本文夢を見るようになったのは、その翌週からだった。 夢の中では、凛は幼い。 六歳か七歳くらい——走っている。 どこかの山道を走っていて、足を滑らせて、転がって、川に落ちて——そこで目が覚める。 最初の夜は気にしなかった。 二度目の夜も。 三度目の夜に目を覚ました時、白が事務所の隅に座っていた。 金色の瞳が暗

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【掌編小説】『除霊事務所は今日も赤字(第3話)』

はじめに本作は、『除霊事務所は今日も赤字』シリーズのエピソード1(除霊事務所は今日も赤字)になります。 タイトル『除霊事務所は今日も赤字(第3話:封筒)』 本文 依頼は、封筒で届いた。 差出人なし、住所なし。 中には便箋が一枚——「お願いがあります。森田誠一の話を聞いてください」。 玲が封筒を手に取った瞬間、微かに顔色が変わった。 封筒を持つ手が、わずかに震えている。 「玲さん?」 「……知っている名前です」 玲は静かに言った。 「生前、担当したクライアントの

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